東京高等裁判所 昭和52年(ネ)516号 判決 1980年1月30日
控訴人(附帯被控訴人、以下「控訴人」という。) 甲野松男
右訴訟代理人弁護士 渡辺明
被控訴人(附帯控訴人、以下「被控訴人」という。) 乙山春子
右訴訟代理人弁護士 土門宏
右訴訟復代理人弁護士 池田道夫
主文
控訴人は被控訴人に対し、金二七〇〇万円及びこれに対する昭和四九年五月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。
この判決は仮に執行することができる。
事実
被控訴代理人は、附帯控訴により、訴えを交換的に変更して当審における新請求として、主文第一、二項同旨の判決と仮執行の宣言を求め、控訴代理人は「本件附帯控訴を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
(請求の原因)
一 被控訴人は控訴人に対し、昭和四八年三月下旬から同年一一月下旬にかけて、合計金三〇〇〇万円を、被控訴人の息子が大学医学部へ昭和四九年四月入学できるよう控訴人において特別の便宜を図る運動費として預け、若し入学ができなかったときは全額を直ちに返済する旨を約定した。
二 しかるに控訴人は、前記入学が実現しなかったにもかかわらず、金三〇〇万円を返済したにすぎない。
三 よって、被控訴人は控訴人に対し、残金二七〇〇万円とこれに対する履行期の後である昭和四九年五月一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(答弁と抗弁)
一 請求原因事実のうち、返済についての約定と入学が実現しなかった点を否認し、その余は認める。
二 被控訴人の息子は、第一志望の○○大学医学部へは成績が悪くて不合格となったが、第二志望の大学医学部へは控訴人の運動の結果入学することができた。
したがって、被控訴人は本件金員を預けた目的を達したから、控訴人には右金員を返済する義務はない。
(抗弁の認否)
第一志望の○○大学医学部への入試が不合格であることは認めるが、その余は否認する。
(証拠関係)《省略》
理由
請求原因第一項のうち返済についての約定を除いたその余の事実、被控訴人の息子が昭和四九年四月の第一志望である○○大学医学部への入試が不合格であったこと、以上は当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、被控訴人は、本件金員を入学試験に合格した場合の寄付金とするものであるから、不合格の場合は結果発表後一週間以内に返済するという約定で控訴人に預けたものであることが認められる。
控訴人は、被控訴人の息子は控訴人の運動の結果第二志望の大学医学部に入学することができた旨抗弁するが、これを認定すべき証拠はなく、かえって《証拠省略》によれば、被控訴人の息子は控訴人が尽力することを約した前記第一志望校のほか○○○○○医大の入試にいずれも失敗し、○○医大に入学することができたが、右入学については控訴人は関与していないことが認められる。
被控訴人が控訴人から本件金員のうち金三〇〇万円の返済を受けたことは、同人の自認するところである。
以上によれば、控訴人は被控訴人に対し、残金二七〇〇万円及びこれに対する履行期の後である昭和四九年五月一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。
よって、被控訴人の附帯控訴に基づく本訴請求は理由があるから認容し、民訴法八九条、一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中永司 裁判官 宮崎啓一 岩井康倶)